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気付いたら23歳(遠い目
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時計を見る。あと20分あった。久々に掃除をした。元から散らかっている訳ではなけれど、一人で暮らすには少し広すぎる家は案外埃が溜まっていて、一度片付け始めると規模を徐々に拡大していかざるを得なくなってしまっていた。おぼろげな記憶だけれど、母は綺麗好きな人だった。私は父に似て、あまり部屋の整頓には拘らない大人になりつつあった。全部終わって手を洗っていたら錆びた呼び鈴の音が聞こえた。ドアを開けると、彼がいた。時間より5分早い到着だった。

「お邪魔します。少し早かった?」
「いや、問題ない。」

彼はいつもより一枚多く上着を羽織っていて、細い身体が若干もこもこしていた。学校以外で彼と会うのは初めてだったのを思い出した。彼の白い頬には少し赤みが差していて「寒くて参りますね」と笑っていた。七月だというのに外は雪でも降り出しそうな寒さが続いていた。この気候も、私には珍しい物ではなかった。カーレルは家に入って一言目に「広い」と言って辺りを見回した。15年前までは三人家族が、12年前までは父子が二人で住んでいた家だから、男一人が住むには広くて当然だ。

「で、夕飯は?」
「鍋をしようと思って。」
「あー、いいじゃないですか。」

試験勉強の手伝いのお礼に要望されたのは、夕食だった。勿論彼とて外で高いものを食べさせろというつもりではなく、私の家に押し掛けてみたかったのだそうだ。少し困ってしまったけれど、断る理由も無いし、彼と一緒に夕飯が食べられたら楽しいだろうと私も思った。誰かと一緒に夕飯を食べるなんて何年ぶりだか分からなかったから、何を作ったら良いやら分からず片付けをしていて見つけた土鍋を使うことにした。これを使うのも、多分10年くらいぶりなんじゃないだろうか。父は得体の知れない肉や魚を何処からか貰ってきて、得体の知れない美味しい鍋を作るのが趣味だった。母は父の凝り性な所に閉口しつつも、味を細かく辛口に評価していた。昔を思い出して、私が少し感傷的な顔をしていたからかも知れない、彼は何も言わずにダイニングの椅子から私を見詰めていた。私が黙って鍋を用意する間ずっと、彼は静かに私を見ていた。彼の方は見なかったが、彼の視線が私に向けられているのは何となく分かった。どうしてだか、とても居心地が良かった。

「いただきます。」
「いただきます。」

美味しい、と彼は笑ってくれた。今日の私は何だか変で、その一言が妙に響いて、嬉しいのに何だか泣けてしまいそうで、変な顔をしてしまった。彼はそれを笑うことなく、ただにこにこしながら箸を進めた。彼は私の違和感に気付いていたと思うけれど、気遣ってくれていたのだろう。胸が一杯で、鍋の味は良く分からなかった。きっと、誰かとこの家で一緒に居るのがあまりに久しぶりだからだろうと思う。

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