カーレルは夕食の片付けを手伝ってから、雪の中帰って行った。部屋は余っているから泊まっていくように薦めようとも思ったけれど、その日の私は妙に感傷的だったし、翌日も学校だったから止めておいた。カーレルにあまり気を使わせても悪いし、誤解を与えても――だから、一体どんな誤解なのだ――いけないだろうし。
「また明日」と手を振るカーレルを表で見送ってから家に入ると、一層広く感じた。だいぶ掃除したから綺麗になったが、その分12年前から時間が止まったかのようだった。時間が動いているのを感じさせるのは、12年で高くなった自分の目線。とっくに背は母を追い抜いて、父に並んだんじゃないだろうか。両親の写真は手元に無いから、二人の背がどれくらいだったかは幼い記憶に頼るしかないけれど。
あぁ、一枚だけあったな。
そう思い出して部屋の隅に放られていた通学鞄を開けて、現代戦史の教科書を取り出す。第一章は二度の北部内戦、第二章から天地戦争の記述が始まる。その冒頭のページに私の父の大きな白黒写真が載っていて“トマス=ウォーラ、天上都市奪取及び天地開戦の中心人物として連邦軍少将ミクトランの下で活躍し、以降天上側の重鎮として天地戦争を指揮。”と簡潔な説明がされていた。
私の微かな記憶では、父は妻思いで息子思いな普通の父親だった。どうしてミクトランに味方して天地戦争を起こしたのかは良く分からない。地上側に残った父の同僚達は、大病を患った私の母の治療費をミクトランが肩代わりした恩に報いようとしたのだろうと言っていた。
それが本当なのかも、私には良く分からない。ただ私は、父が起こした戦争を止めたいと思っている。同時に、亡くなった母の墓と息子の私を置いていった父の真意を、直接問いただしたいとも。恨んでいる訳ではない。父が私や母を大切に思っていたことは知っているから。父は私に、天上軍幹部の息子と知られると苦労が多いからと母方の姓を名乗るよう書き残していた。そして12年間、毎月十分な額の仕送りが匿名で送られてくる。
「父さん、友達出来たよ。」
教科書の写真を見つめながら一晩を明かした。