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気付いたら23歳(遠い目
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むしゃむしゃしてやった後悔はしてない。
旧作品を加筆。
先生×生徒。

「赤三つってのは凄いなぁ。」

返って来た俺のテストを眺めながら、この男は呟く。
授業中、色々と有意義に過ごしていたお陰で俺の答案は悲惨だった。
いや、逆に荒涼として清々しいぐらいだ。
答案用紙から顔を上げた奴は目の前で不貞腐れる俺を見る。
苦笑いと、呆れの表情。

「三年になる気あんの?」

随分と砕けた口調で紫色の煙を吐いた。
この男は、煙草吸いながら生徒と面談する不良教師。
で、俺は不良教師のクラスのダメ学生。
基本的に授業中は睡眠時間。

「良く寝てたらしいじゃん。」
「別にいいだろ。」
「ま、寝る子は育つってな。」

カラカラとこの男は笑い、俺の頭をポンポンと撫でた。
大学出て二年も経っていない、つまり六歳しか違わない。
なのに、この態度。
癪になって手を振り払う。

「カリカリすんなよ、流行のキレる子供か?」
「神経逆撫でしてんの誰だよ。」
「出来てんのは地理だけかぁ。」
「話聞け。」

俺の話なんか聞かず、成績表を見つつ得意げなこの男。
理由は知っている。
何故って、地理を教えてるのがこの男だからだ。

確かに地理のテストだけは良く出来た。
その理由も知ってる。
何故って、地理を教えてるのがこの男だからだ。

「少しは勉強した方が良いぜ?」
「ほっとけ。」

目を合わさないままで呟く。
こいつとこんなに話したのは久々かな。
授業サボって屋上で寝てた時もこんなだった。
案外マメだから問題児の世話を焼くんだ。
不良教師の癖に。

「毎度手掛かる奴だな。」

と言うほど面倒そうじゃないから、構われるのは悪い気がしない。
「最近授業出てるな。熱でもあるのか?」とか。
「寝るのは出席とってからにしとけよ。」とか。
妙に親しげに話しかけられるのは、嫌じゃなかった。
結構良い奴だなって、そう思った。

「進級させて欲しいんじゃねぇの?」
「別に、どっちでも良いし。」

勉強は嫌いだ。
こいつの授業は一字一句逃さず聞いてる癖に。
地理が好きなわけじゃない。
基本的に勉強なんてものは皆嫌いだ。
でも、消去法で行くと地理になる。
それも高校に入ってからだが。

「おーっ、字まで違うな。」

国語と地理の答案とを見比べてはしゃぐ奴。
元々、丁寧に書けば字は上手い方だ。
科目によって書く字の丁寧さが違うのに気付いたのは最近。
でも、今回は自覚的に綺麗な字を書いた。
多分、こうまですれば気が付くと思った。
気が付いて、距離を取ってくれれば諦めもついた。
なのに、この男は一向に変わる気配が無い。
今まで通り、親しげで嫌な顔しつつ俺の世話を焼く。

「まっ、素行も悪くないしなぁ、俺の指導のお蔭で。」
「ちーげよ。」
「進級させてやっても良いんだけど。」

腹立つな。
俺の気持ちを薄々分かっている癖に、全然気にしない。
さっきから二人きりで、俺はこんなにドキドキしてるのに。
そんな気持ちを踏み躙るように、さっさと切り上げようとしている。

「つーわけでさ、先生に言う事ないか?」

不良教師はさっさと俺に「進級させて下さい」と言わせたいらしい。
妙に馴れ馴れしく接してくる癖に、素っ気無い仕事ぶりがムカつく。
もうちょっと面倒臭い生徒になってやる。

「ねーし。」
「お前なぁ。留年させたら俺も面倒なんだぞ。」

この男の都合など知ったことじゃない。
俺にも俺なりの都合があるんだ。
目を合わさないように窓の外を見た。
二月の寒空の向こうに夕日が沈もうとしている。
夕焼けの綺麗な日の翌日は晴れだ、と聞いたことがある。
俺が聞いてたんだから、多分この男の話だったと思う。

「明日休みだし、早く帰りたくないわけ?」

明日は休み。
月曜も休みだから三連休だ。
こいつ、どっか出かけたりするのかな。
・・・・・・女とでも。 

「別に。あんただろ?」
「俺?」
「女とでも出掛けんじゃねーの?」

俺の問いかけに、この男は笑い出す。
何が可笑しかったか知らないが、俺はまた腹が立った。
何だかとても馬鹿にされたような気がして。

「何が可笑しいんだよ。」
「別に。」
「腹立つんだけど。」
「あー、悪い悪い。つーかさ。」
「あん?」
「俺独り身だし。」

なおも可笑しそうに笑う。
ワケ分かんねえよ、アンタ。

「高校生だねぇ。」
「は?」
「恋バナつーの?好きじゃん、お前ら。」
「別に、俺は・・・。」
「違うのか?」
「アンタでも恋愛とかすんのかなって。」
「へー。」
「つーか、アンタの好みってどんななワケ?」

別にこの男の好みになれる訳でもないが。
でも参考ぐらいにはなるかもしれないと言う打算と共に。
何か頭悪い女みたいな事考えてるな、俺。

「絶対好みにうるさいだろ、アンタ。」
「好みねぇ。どうかなぁ。」

好み、と言う言葉に彼はククッと笑いを漏らす。
そして、手を顎に当てて作ったような思案顔になる。
それを見詰めていると、突然彼がこちらを向いた。

「歳下で・・・。」
「ロリコン?」
「あと、少し生意気なぐらいで。」
「へー。」
「健康的で、目が大きくて。」

堰を切ったかのように、この男の口から言葉が溢れ出す。
アバウトな線を予想していた俺は、細かい注文が並んで驚きを隠せない。
そんな俺を尻目に言葉は続く。

「態度が分かり易過ぎるくせに意気地なしで、問題児で、赤点を三つも取って、俺の科目だけ出来る奴とか。」

俺の思考は止まった。
この男は何が言いたいんだ?
さっきから浮かべてるこの笑みは何だ?

「俺に何か言うことない?」

笑みが消え、突然真面目な顔になる。
いつもヘラヘラしているこの男には珍しい。
思わず、胸が高鳴る。
そして、自然に言葉が出てきてしまった。

「・・・・・好き、です。」

俺をじっと見詰めて、この男が黙る。
言ってしまって、俺は心音が頭に響くほど緊張した。
と共に、強烈な後悔に襲われた。
この男は一言も発さない。
どうしよう、顔が熱い。

「明日は暇か?」
「?」
「暇か?」

ワケも分からぬまま、一つ頷く。
どういうつもりなのだろう。

「九時半に駅な。」
「は?」
「援交にならない範囲で奢ってやるから。」

そう言ったかと思うと、この男は席を立つ。
くしゃくしゃっと俺の頭を撫でて、部屋を出て行ってしまった。

「・・・・・・う、わー。」

残された俺。
日はもう沈んでて、辺りは真っ暗だった。
早く帰らなきゃと思うのに、暫く動く事なんか出来なかった。

おわり。
後々「好みを聞く所のリアリティーが・・・」とか自分の作品に文句をつける私です。
ファンタジーとリアリティーのバランスが難しいよね。
当然だけどファンタジー成分はないとつまらないんだ。
でも、リアルさがないと冷めるって言うかさ。説得力、みたいな?
第一作を書くのは劇作家で、加筆修正するのは演出家のような気持ち。
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