気付いたら23歳(遠い目
大きいことはいいことだ
高校一年の春休み。半端な長さの休みで特に予定もなく、共働きの両親は年度末で忙しく、ぼんやり本を読んでいたところに幼馴染がやってきた。インターフォンを押して、名前を告げて、僕の発言を全く待つことなく上がり込む辺りが、大きなしゃもじを持って他人の家に押し入る芸人を彷彿とさせた。
「おうおう、俊介。」
俊介というのは僕だ。倉橋俊介。特に名前以外紹介することもないから、これだけに留める。
僕が何を言っても無駄だろうと諦めて、自分の部屋に上げたところ、特に遠慮もなく人のベッドに寝そべって、一言二言お決まりのように「意外に部屋が汚いのはギャップ萌え狙いなの?」とか言ってから、彼は本題を切り出した。
「あのさ。」
彼が何かを切り出す時は、決まってこれで、僕の経験だとこれから聞こえてくる内容はあまり良いものではないことが多い。
いくつか例を挙げよう。中学二年の八月、夏休み最終日に宿題を手伝えと電話を掛けてきた。中学三年の11月、二人の女性から言い寄られて両方に良い返事をしてしまったが、どうすべきかと相談された。高校一年の6月、子供産んで育てるためには幾ら必要かと聞かれた。
幸い、最後の奴は僕が早合点しただけだった。親を大切に思い始めたかれは自分に幾らかかったのかが気になったのだそうだ。僕はてっきり、彼が自慢のうっかりぶりで16歳の父になったものと・・・。
「お前のちんこ見せてくんない?」
「何だ、そんなことか。」
てっきり「最近担任のお腹が大きくなっているのは自分が原因」だとか「自転車で人を轢いてしまって相手が重傷」だとかそれぐらいのことかと思った。何だ、ちんこを見せるぐらいなら・・・って、え?
「あ、良いの?案外あっさりだったな。良かったー。」
「え、いや、待て。ちょっと待て。」
平然と人のズボンのベルトに手を掛ける辺り、こいつの行動規範は少しばかりおかしい。僕は、大過なく生きていくことを最大の目標にしているのだけれど、その目標への最大の障害は間違いなく彼だと思う。
「え、ダメなの?」
「いや、ダメだろ、普通。」
「前から何度も見てるじゃん。」
「10年くらい前の話だろ。」
「まぁ、そうだけど。」
友達は選べるが親兄弟は選べない、という話があった気がするけれど、僕は幼馴染も選べないと言いたい。この男、永井弘之とは随分長い付き合いになるが未だに意味が分からない。
「何でそんなに見たいんだよ。」
「お前の凄い大きいって聞いたから。」
「は?」
「高岡が言ってたんだよ。」
「何で高岡が?」
「林間学校の風呂で見たらしいよ。」
「・・・・。」
「あいつお喋りだから、凄い噂になってて。」
最近女子が俺の顔を見て苦笑いしたり顔を赤らめたりするのはそれなのか。俺はてっきり日頃考えていることが顔に出ているのかと思っていたけれど、なるほど、今度高岡にはお礼をしなければ。
「と言うわけで。」
「脱がすな!」
「でかいんだし多少減ったって良いだろ。」
違う。そういう時のコメントは減るもんじゃないだろ、だ。あぁ、意味が分からん。大きかったら見たくなるのか?だったら海外のゲイサイトでも見て回ってグローバルスタンダードなサイズを見たら良いじゃないか。いや、自分で見たことないから適当なことを言っているけれど。
「うわっ。でか。」
僕は押しに弱い。押しに弱いからこういう強引な人間といつまでも親しくしている。僕は大して親しげに振る舞ったことはないのだけれど、彼が親しい人間らしく行動するのだ。結果、僕は彼と親しいかのように、というか親しくなってしまってかつそれが継続しているのだ。
「うわー、すげー。」
「もう良いだろ!」
他人に陰部を見せろと要求されたのも初めて、無理矢理服を脱がされたのも初めて、陰部をしげしげと見られたのも初めて。ちなみに言うと、陰部を触られるのも・・・。
「何でお前は人のものを触ってるんだ!」
「あ、何か、ほら、折角だし。」
「どんな折角だ。」
「これが勃起したら凄いだろうなと思って。」
「・・・・!?」
こいつはやばい。本格的に頭がおかしい。何故そんなに人の陰茎に興味を持つ。ちんこで盛り上がるのは小学生までにしてくれ。いや、現在彼はそのワードではなく実物で盛り上がっているわけだが。
「うわっ、やめろ、馬鹿。」
「あ、でかくても結構敏感なんだ。」
その知的好奇心に溢れた顔は止めろ。羞恥と情けなさで死にたくなる。彼は制止も聞かず、というか僕がきちんと抵抗出来ないまま、彼は積極的に僕の陰部を弄り始めた。
「あ、ちょっとでかくなってきた?うわっ。」
「お、お前、息・・・当たる。」
「え?あぁ。フーッ。」
「ひゃあっ。」
僕は今、女の子に生まれなくて本当に良かったと思っている。この性格だったら絶対に悪い男に押し切られて大して好きでもない人間に処女を捧げることになっていただろう。僕は男で良かった。勿論、そのささやかな幸せは現状には何の慰めにもならないけれど。
「お前、ほんと・・・いい加減にっ。」
「そろそろ完勃ち?もうちょい?」
濁りのない真っ直ぐな目でこちらを見るな。僕は正直、少し気持ち良くなってきてしまって、どうしようもない表情をしている筈なんだ。もうそっちを見るのは許すからこっちを見るな。
「すげーな。これ入ったら死ぬな。」
指で大きさを測りながら、彼は物騒な感嘆の声を挙げる。いや、その前に僕は羞恥で死にそうなんだが。
「もう十分見ただろ。そろそ・・うわっ。」
流石にもう終わりと思ったけれど、やはり彼は僕の思うようにはならない人間で、どうしてそんなことをしたのか全く僕には分からなかったけれど、彼は知的好奇心が輝く瞳のままで、僕の陰部を口の中に収めた。
「ばっ・・・おま、何して・・・。」
「ふへぇ。ふひのなかひっはい。」
「しゃ、べんなっ。」
今更だが、僕は童貞だ。初めてのフェラチオ(英語だとblow jobとか言うらしい、いや、今は全く関係ないが、脳裏に浮かんでしまったのだ)が無理矢理で、男で、しかも永井弘之だったのはショックと言う他ない。
ただ、それ以上にショックだったのは、彼に銜えられることに堪らない快感を感じたことだった。あぁ、何と浅ましい動物なのだろう。性器に刺激があれば相手は何でも良いと言うのだろうか。まだ性行為に少しばかりのロマンを求めていた高校生の僕は絶望する思いだった。
「やめっ、はなせっ・・あっ。」
勿論、そんなのは後付けで、その時僕の脳内にあったのは二つ。強烈な射精感と流石に口の中に射精してしまってはまずいだろうということ。脳内にあったたった二つのことが相反するのだから人間とは因果な生き物だ。
「離せっ。出るから。でちゃっ。」
生まれてきて16年と3ヶ月、精通があってから4年と11ヶ月、僕が経験した中で最高の射精だった。悲しいのは、その一瞬後には最悪の後味が押し寄せてきたことだけれど。
思い切り喉に出されて、流石に彼は咳き込んだ。恐らく僕は全く悪くないはずなのだけれど、何だか悪かった気がして、慌ててティッシュを数枚取って彼に差し出した。
「はぁ、うわ、何か、凄い味だな。」
「え、まさか、お前・・・。」
「え?」
「飲んだのか?」
「いや、折角だし、経験かなと思って。」
彼の折角だし、は幅が広すぎる。僕は何だか腹立たしくなって、ティッシュで彼の口周りを雑に拭き取って、屑篭に放り込んだ。
「あ、怒った?」
「怒るに決まっている。」
「悪かったって。」
「お前、何が悪かったか分かっていないだろ。」
どこが悪かったか何て、今回の件なら述べればキリがないが。見ようによっては悪質な強制わいせつだ。と言うか、どんな見方をしても悪質な強制わいせつだと思う。
「いや、ごめん、ごめん。お前の反応が良いから。」
頭を掻く彼の様子に、何か不自然なものを感じた。何故か体育座り。さっきまで胡坐をかいていた筈なのだけれど。
「・・・。」
「ん?どうした?」
「ちょっとお前、立て。」
「え?」
「立て。」
「いや、その。」
「立てないか?」
「えーっと、その・・・。」
「理由を言え。」
「・・・勃っているので立てません。」
照れながら、少し上手いことを言ったような顔をしたので、余計に腹が立って、もう少し追求する。
「何で勃ったんだ?」
「えーっと、その、何か・・・。」
「何か?」
「お前のちんこ舐めてたら。」
「ほー。」
「興奮、して。」
そういうものだろうか。同じ男を弄んでそんなに面白いものだろうか。分からないが、実験は簡単に出来る。
「え、ちょっと、待て。待て。」
彼の足に手を掛け、強引に開かせる。そもそも体格は僕の方が良いのだ。力も少しだが僕の方が強い。彼は僕に比べたらきちんと抵抗をしていたが、大した意味はなかった。
足を開いた先で、ズボンが内側から押し上げられているのが見えた。なるほど、なかなかにいやらしく見える光景ではある。ズボンに手を掛けると抵抗は更に激しくなったが知ったことではない。
「やっ、止めろって。」
「お前は人にしたことを拒むのか?」
「あー・・・いやぁ・・・。」
言い淀んだ隙に進める。ズボンを下着と一緒に下ろし、陰茎を露出させる。触ってもいないのにすっかり立ち上がった彼のものが眼前に現れた。同じ陰茎と言っても、大きさや形が色々とあるものだ。なるほど、しげしげと眺めていた気持ちが少し分かる。
「あっ、やめろよ、さわっ・・・あっ、はっ。」
触ってやると、人に敏感と言っていたくせに自分の方が派手に反応をしている。抵抗も止んで、大人しくなってきた。さて、どうしたものか。
「何か、自分でするのとちがっ、ああっ。」
人の性器を弄って興奮のを覚える気持ちは何となく分かった。これは彼の反応が良いからかもしれないので普遍的なものとは断言出来ないが。さて、本来の目的は達されたけれど、どうしたものか。ここはやはり。
「うっ、わっ、お前、口っ。」
折角だから銜えてみようと思う気持ちも分からないではない。彼は涙目になって喘ぎ声を漏らしている。その口がさっきまで自分のものを舐めていたかと思うとなかなかにそそるものがある。何をだと問われても上手く応えられないが。
しかし、驚いたのは、案外同性の性器を口に含むことへ抵抗がなかったことだ。目の前でやられた後だからかもしれないし、女性の性器を舐めた経験がないから比較は出来ないが。
「しゅん、すけ、お前・・・何でそんなうまっ・・。」
「はんへといはれへも。」
「お前、もしかして、経け、いたっ。」
とても失礼なことを言われた気がしたから緩く歯を立てた。たちが悪いのは彼が冗談ではなく本気でそういうことを聞いてきたことだ。同性の性器を舐めるだなんて、そんな恐ろしいことをそうそうする訳がない。いや、現にしているのだが。
「あっ、あぁっ、あぁぁぁぁっ。」
何というか、僕の幼馴染は想像以上の変態だったようで、僕が歯を立てた途端、喘ぎ声を更に激しくして口の端から唾液を垂らしながら、盛大に僕の口の中に射精をした。
驚きのあまり口の中に放たれたものを、そのまま飲み込んでしまった。今まで飲んだことのあるどんなものよりも飲み込みにくいそれは、喉の奥に張り付くような感触を残しながら僕の食道の中に消えていった。
「おまえ、なんか、上手すぎ。」
少し潤んだ目と上気した肌と、満足気な表情で彼がそう言ったのが、何だか堪らなく腹立たしく、僕はもう萎えてしまった彼のものにもう一度噛み付いた。
彼が喜びの声を上げ、僕が悔恨に打ちひしがれたのは言うまでもない。
あとがき
酔っ払って書いたものを手直ししました。純粋に気になるのが、人のちんちん銜えるってどんな気持ちなんだろね、ってことなんですよ。僕、経験ないんで。多分、僕は案外いけそうなんですけど、まぁ、普通はちょっと抵抗あるだろうなぁ。
勢いで書いたものなので、手直しするにしても勢いを失わないようにしました。お陰で拙い点は多々あるんですけど、まぁ、勢い感が伝わったらいいかなと思います。俊介くんと弘之くんの遣り取り、特に「でかいんだし多少減ったって良いだろ」って辺りはお気に入りです。笑
PR
コメントを書く