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気付いたら23歳(遠い目
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寒さがまた徐々に厳しくなる9月。寒さに秋雨(雪ではないのが救いか)が拍車を掛ける。寮が遠いカーレルは、雨の日に時たま私の家に寄った。そうなると自然に夕食を共にし、一緒に過ごす時間が増え、お互いに雨がそう嫌でもなくなった。「雨」だとか「テスト勉強」だとか口実が無いと一緒に過ごせないのが可笑しくもあり、口実を探すのが楽しくもあった。

「雨宿りのお礼」と掃除が始まり、もう何年も使わなかった部屋も二人で少しずつ綺麗にした。止まっていたこの家の時間が動き始めたかのように思えた。掃除で汚れたり、雨に濡れたり、と言った時の為に私の部屋の箪笥にはカーレルの着替えが置かれた。じわじわと私の生活に、時に図々しく時に控えめに彼が浸透していくのが嬉しかった。

両親の部屋を掃除する時、私は両親の話をした。雑巾で壁を丁寧に拭きながら、彼は私の話を聞いてくれた。母が病気で亡くなった事、父の上官だったミクトランが助けてくれた事、父が天上軍加わった事、父がトマス=ウォーラだという事。多分誰にも全てを話したことはなかったと思う。初めて話したのがカーレルだった。彼は地上軍の士官学生で、噂に寄れば父親は地上軍の幹部だと言うのに、そんな事は忘れてしまっていた。
話の途中で気付いたものの、今更遅いと思って全て話してしまった。彼が壁を拭く音、私が床を拭く音だけが聞こえる。部屋の空気の重さに耐えかねて、私が口を開いた。

「すまない。」

言わなければ良かった。天上軍の幹部の息子と親しいなんて彼の立場を悪くするだけなのに。いや、知らなくてもいずれは露見すること。なら最初から彼と親しくなんかならなければ良かった?もっと早いうちに言ってしまえば良かった?言おう言おうと思っていたのに、彼との関係を壊すのが嫌で言えずにいた。だったら隠し通せば良かったのに、彼なら受け止めてくれるような気がして、期待をしてしまって言ってしまった。彼の立場を考えれば、とてもそんなことは出来ないのに。

「謝らないで下さい。」
「・・・・・。」
「・・・怒らないでくれますか?」
「え?」
「お父様のことは知っていました。」

驚いて振り返ると、彼が申し訳無さそうにこちらを見詰めていた。

「最初は知らずに貴方と親しくなりました。」
「では、いつ?」
「7月頃、貴方の話を父にした時に。」
「お父上と言う事は・・・。」
「父が地上軍幹部だと言う噂は?」
「・・・ああ。」
「私の父は、メルクリウス=リトラーと言います。」

私はその人を知っていた。父の大切な友人の一人。そして天上王ミクトランの親友。現在の地上軍総司令官。病床の母をミクトランと一緒に何度も見舞いに来てくれた。父がミクトランに従って天上へ行った後は、何度も一人になった私を訪ねてくれた。カーレルに良く似た、とても柔らかい空気を纏った優しい人。

「知っているのに黙っていてごめんなさい。」
「いや、そんな。」
「出来れば、貴方の口から聞きたかったんです。」
「・・・・・・・・・。」
「聞かせて貰えて嬉しかった。」
「・・・そうか。」

彼が笑顔を見せたから、私も自然と笑顔が零れた。

「貴方が元気だと知って、父は喜んでいました。」
「そうか。」
「幸せになってほしい、と。」
「私に?」
「ええ。貴方に。」
「・・・そう思って貰えるのは、ありがたいな。」
「軍人を目指している事については複雑そうでした。」
「そうか。」
「まっ、私も反対されました。」
「はははっ。」
「自分も軍人の癖にね。」
「なぁ、カーレル。」
「なんですか?」
「私は今でも幸せなんだけれどな。」

 

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