気付いたら23歳(遠い目
「はじめまして。」
長机の斜向かいに座り、軽く会釈して微笑した彼は「ベルセリオス」と名乗った。多分、その時に交わした言葉は殆んどなくて私の方は名乗り損ねたぐらいだったけれど、今でも彼の容姿については何故か良く憶えている。ゆで卵を剥いたような肌に大きく丸い瞳が柔らかく光っていて、鮮やかな紅紫の髪が豊かに伸びていたのだった。後姿しか知らない彼に対して、私が一体どんな想像をしていたのかは今となっては記憶にないが、多分、思い描いていた勝手な彼のイメージと大きく隔たっていたから記憶に残ったのだと思う。
彼への興味はその日から一層増した。興味に特に理由があるはずもないけれど、敢えて言うなら彼は一種独特の雰囲気を持っていて、とにかく私は気になったのだ。多分親しくなれるような予感もしたのだろう。しかし、私は昔から人付き合いに積極的な性格ではなかったから、自分から彼に話しかけるようなことは出来なかったし、彼は勿論今まで通り静かに日々を過ごしていた。偶然が一度あったのだから、きっともう一度あるだろう。そう思って私は、次の偶然を彼の後ろ姿を毎朝確認しながら待っていた。
続く
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