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気付いたら23歳(遠い目
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カーレルがディムロスを飼う話、を書こうと思ったら違うものになった。



「レンズ内圧は順調に低下。」
「高度晶力波、振動数漸減。」
「よーし。今回は良いんじゃねーの?」

終戦から三カ月でソーディアンの凍結が決まり、二ヶ月で計画を仕上げて毎月二本ずつ。
シャルティエ、イクティノス、アトワイト、クレメンテと済んでディムロスとベルセリオス。
そこで躓いたのが四ヶ月前。
ディムロスの封印は無事に済んだが、ベルセリオスがどうにも上手くいかない。

「三度目の正直、って言うからな。」
「初回に失敗したので四度目ですけどね。」

シャルティエの脛を蹴っ飛ばしてカプセルに歩み寄る。
「ひどい」とかぶつぶつ言ってる気がするが気にしない。
ただまぁ、三回も失敗してるのは事実だからそろそろ焦る。
封印作業の予算も馬鹿にならない。イクティノスがうるさいし・・・。

「ふぁぁ・・・。」

欠伸が出た。
封印作業が始まってからは月一で不眠不休週がある。
作業日の今日が最終日だから眠い。眠い。

「お疲れですね。」
「そりゃ、もう24だからなー。疲れが抜けねーよ。」
「生活態度にも理由がありそうですけれど。」
「ばーか。戦場できっちり三食喰って夜にぐっすり寝て、なんて奴いねえぞ。」
「いつからここは戦場になったんですか・・・・。」
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ちょっと設定を大幅に・・・・



私は何ヶ月かに一度、兄からお使いを頼まれる。
テルシェイ州の片田舎まで小旅行をするというもの。
行先は余程細かい地図を見ないと載っていない。
西海に面した「イケンズ」という小さな漁師町だった。
私の家からは汽車を乗り継いでも少し遠い。

兄は、あまり他人にものを頼む方ではなかった。
それは全てのことを自分でやると言う意味ではない。
あの人は、どちらかと言うと「やらせる」人だから。

リヒャルトさんはあの兄と一緒にいて不自由はないのだろうか。
二、三度会っただけだけれど明るくて楽しい人だった。
あまり迷惑をかけていないと良いのだけれど。

とにかく、これは兄が私に「依頼」してきた珍しい例だった。
多分、これは兄にとって命令してやらせる類のものではないのだろう。
もっと重要で、大切な用事なのだ。



「ご乗車お疲れ様です。」

ホームに降りたのは私だけで、駅員は嬉しそうに笑った。
イケンズに一番最寄りの駅は十分田舎と言って良かった。
北部内乱の戦場や後背地になった地域とは随分違う。
やはり戦争は大きな発展を促すのだなと感じた。
もっとも、私が10年と少し生きてきた中で戦争は一度切りだったけれど。

バスは一日に五本しかない。
これを多いと考えるか、少ないと考えるかは難しいところだった。
1時間バスを待ち、2時間バスに揺られた。

PTSD、シェルショック、戦闘ストレス反応。
兄は多くを語らなかったがどうやら、そういうものだそうだ。
北部内乱は私が学校で習う以上のものだったらしい。

兄は下士官だった。
中学時代に家を飛び出し、陸軍に入った兄。
何も分からない私はただただカッコ良いと思っていた。

彼らは士官学生だった。
高校を出て一年も経っていなかった。
今の私から考えてもそこまで遠い立場ではない。。

多分、壊れてしまう人もいるだろうな。
もっとも、人間がどれくらいで壊れるのか分からないけれど。

イケンズは天上都市建設の喧騒とは無縁の静かな町だった。
バス停の近くで畑を耕していた老人は、私を覚えていた。
それ程に、この町は外から何もやってこない町なのだ。



目的地まではもう少し歩いた。
ささやかな町のささやかな中心部からすら離れた場所だった。
高台から見える海が美しかった。

「いらっしゃい。4か月ぶりかな。」

海を見ていた私に、二階の窓から声が掛った。
柔らかな笑顔だった。裏表無い、透明な笑顔。
無垢な赤ん坊のようで、24歳の彼には似つかわしくなく思えた。
私はいつものように少しだけ恐怖を感じながら応えた。

「お久しぶりです。リトラーさん。」

兄は私に「行って欲しい」としか言わなかった。
だから私は、その言葉の通り、何も考えずに彼らを訪れていた。
彼と親しかった人々の近況を語り、彼らの日常を聞く。
たったそれだけのことだった。

「ウォーラさんから息子さんの写真です。」
「えーっと、いくつになるんだっけ?」
「7歳です。会う度に大きくなるからこれよりもう少し・・・。」
「私から見たら君もだよ。」

彼は私の頭を撫でた。
照れることも、笑うことも出来ない。
彼が優しく良い人だと実感する度に悲しくなる。
この人はこれからどうなって行くのだろう、と。

「あ、起きたのか。」

寝室のドアが開き、彼より一回り長身の男性が出てきた。
長い金髪が開け放たれた窓からの潮風で揺れる。
私は感情の乱れの発露を辛うじて抑えた。
恐ろしいほどに、その人の瞳は虚ろだったのだ。

「ごめん、ちょっと待って。」

席を立った彼は、その人の世話を始めた。
髪を整え、服を替え、体を拭き・・・
その間も絶え間なくリトラーさんは話しかける。
いつも通り、「ああ」と「うう」しか応答はなかったが。

「いつ起きてくるか分からないから。準備が出来なくて。」

申し訳なさそうに笑った彼は、その人と私にコーヒーを出した。
もちろん、その人はカップに手を伸ばしたりはしない。
立ち上る湯気が運んでくる香りに微かな表情の変化を見せただけだった。

「ミクトラン。イクティノス君来たよ。分かるだろ?」

微かな唸りの返答もなかった。
その人、ミクトランさんは私ではなく窓の外の海を見ていた。
分からなくて良い、分からない方が良いことが私には分かっていた。
きっと彼はリトラーさんすら分かっていないのだろう、と。

「お久しぶりです。」

私は、リトラーさんへの礼儀としてあいさつをした。
存在しないコミュニケーションを仮想するのは辛かった。
これを毎日二人きりで繰り返しているリトラーさんが想像できたから。

今、目の前で行われていることの繰り返し。
空想上のコミュニケーションと献身的な看護。
それでも、リトラーさんの目には慈しみと愛があった。
人生経験に圧倒的な不足を感じる僕にも分かる。

どうして彼は、リトラーさんを残して壊れてしまったのだろう。
何度か会ううちに、私はミクトランさんの罪の深さを感じるようになった。



だから、私は凄くお節介になっていった。

「兄は、いえ、多分皆さん、ですけど・・・」

互いの近況報告が一段落ついたところだった。
ミクトランさんに聞こえないのを確認してから僕は口に出した。
勿論、もともと聞こえてはいないのだが本人がいると流石に遠慮をする。

「リトラーさんに戻ってきて欲しいと思っているんじゃないかと・・・」

自分らしくない歯切れの悪い言葉だった。
はっきりと物を言って、この優しい人を傷つけるのが嫌だった。
傷つかないにせよ、この人から冷たい態度を受けるのが嫌だった。

「大丈夫。心配いらないよ。」

予想していた反応とは全く異なった返答。
とても明るく、朗らかで、笑顔、の拒絶。
しかも、それは物凄くはっきりしたものだった。

「私はね、ずっとこうして過ごしたかったんだ。」
「・・・二人で?」
「そう。誰にも、戦争にも、邪魔されないで。」
「・・・・・・・。」
「だから幸せだよ。とても。」

戦争で壊れてしまった彼を、人知れず、大切に大切にして暮らす。
それが幸せなのだとはっきりと言われてしまった。
あぁ、やっぱりそうなんだ、と気付けてしまった。
これは多分だけれど、兄も気付いていたんだ。
それを確認する為に私を寄越したんだ。

「気付いたかな?」
「・・・多分。」
「うん。あまり、まともとは言えない、私も。」
「・・・・・・・。」
「自分で分かってる。だから大丈夫。」

最近夢を見るのだそうだ。
ミクトランさんが天上都市を乗っ取って戦争を起こす夢。
二人は互いに敵同士で、離れ離れになって戦うのだと言う。

「そんな夢から覚めて、隣に彼がいると安心するんだ。」

そしてまた、あの無垢な笑み。
平常な精神の持ち主には出来ない穢れない表情。




彼は泊まっていくかと提案してくれたけれど、丁寧に断った。
正直なところ、私はここに存在しているだけで悲しくて辛かったのだ。
私はもう、殆ど何もしゃべれず彼の言葉に頷くだけだった。

「また、来てくれるかい?」

私が唯一、きちんと返事出来たのは去り際のこの言葉だった。
「はい」と力強く答えると、彼はまた私の頭を撫でてくれた。
私は、私が彼の言う「邪魔」な存在にならない限りここに来ようと思う。

「では、また。」

手を振って彼らの家を後にした。
少し行ってから、振り向く。
椅子で寛ぐミクトランさんに駆け寄るリトラーさんの背中が見えた。

それは少しだけ滲んで見えた。
潮風が目に沁みる。


「どうだったかな?」
「参謀本部経由で報告が来ている筈ですが。」
「公式な形で話を聞きたい訳ではないんだ。」


イマニグス市の包囲戦を終えて中央に戻ってきていたイクティノスは、いかにも彼らしく、恐らく山程あるであろう他の仕事に早くかかりたい様を露わにしていた。彼の勤勉なところと必要以上に気持ちを隠さないところを私は昔から好ましく思っている。


「世間話なら仕事が済んでからに願います。」
「君の、その険のある美丈夫ぶりにはファンもいるらしいね。」
「ご用件をどうぞ。出来れば手短に。」
「そう邪険に扱わないでくれないか。」


部下ならば将校、兵を問わず慈愛と助言とで接する彼は上官に対しては正反対の態度を取る。ちょっとした軽口にも付き合ってくれない。勿論、冷たくされても彼のことを憎からず思う上官もいるというのは本当だ。私としては好みと少し違うのだけれど。


「新品の小隊長を幾らか連れて行ったと聞いた。」
「・・・・・その件ですか。」
「君の言う通り世間話だ。嫌なら良い。」
「いえ、不真面目な前置きにそぐわないと感じただけです。」
「部下に親しみを表す術を多くは知らないのでね。」


彼は少し呆れたような表情を作って私の軽口を再度非難した後、許可も得ずにソファーに腰掛けた。新米少尉の頃から彼には洗練された不遜さがあり、しかしそれが不快にならない不思議な徳も持ち合わせていた。その点は亡くなった兄のイリアと良く似ている。


「紅茶を頂いても?」
「冷めた淹れ置きで良ければ。」
「今日は司令の清貧ぶりにお付き合いします。」


私が差し出したティーカップを慇懃に受け取った彼は唇を湿らせる程度口をつけ、早くも話し始めた。この短い所作の間に何を話すかはまとまったらしい。


「もう何人か新入りを欠きました。」
「気の毒なことだ。」
「ええ、全く。」
「生き残りも充分気の毒ではあるがね。どうしている?」


彼も私も、あまり死んだ人間のことは気に懸けないようにしている。死んだ人間を悼むことは勿論必要だし、その被害を抑える為に何かしら検討することは我々の仕事の一部ではあるのだが、それ以上に生き延びた人間をケアすることを重視しなければならない。彼や私の同期も同様に多くが死んだが、先人達が生き延びた私達をこうしてどうにか育てた結果軍は変わらず機能している。


「休暇をやりました。遊びに出ているかと。」
「敵の死、仲間の死、その他色々を紛らわさねばね。」
「ええ、不思議なものでその為に何が必要かは皆分かるようで。」
「お蔭様で兵站部に女衒の真似事をさせてしまっている。」


人肌と言うものは安全と平和を根源的な部分で知らせてくれるのだが、配偶者や恋人が常に傍にいると言う訳にはいかない。代わりに、と言うと大変語弊があるのだが将兵の心身を冷却する装置として公正な価格と良好な衛生状況、出来ればある程度の水準が保障された労働環境、この三つを兼備した売春宿を兵站部が誘致しているのだ。


「女衒などと言ったら兵站部が怒りますよ。」
「軍人より余程才覚がいる仕事だ。卑しむつもりはない。」
「もし兵站部長が激怒したらそう言ってやるのですか?」
「先に殴られてしまいそうだな。女衒は取り消そう。」


とは言え、女衒までは言わないまでもあまり褒められたことをしていないのは分かる。倫理的な話として、売春と言うのは手放しに容認できるものではない。しかし、現実にはそれを必要とする将兵がおり、そこで働くことを必要とする食い詰めた女達がいる。兵士が占領地で強姦をするより、貧しい女達が路上で飢えるより、余程良い。必要悪と言って良いものだと私は考えている。


「まぁ、君はそんなものに縁がなかっただろうけれど。」
「男でも女でも適当に引っかけることが出来ましたからね、当時は。」


たまにこうやってギョッとするようなことをさらりと言うのが、時たま見せる彼の茶目っ気だった。彼が昔、ちょっと噂になる撃墜王だったことを知る者は今では多くない。本人と私ぐらいになってしまったのではないだろうか。


「私は君のように身軽ではなかったからなぁ。」
「司令はお相手がいらしたでしょう?」
「だからと言って、簡単な話でもなかったんだ。」
「その点はお察しします。」
「私は兎も角、あの人はとても真面目な人だったからね。」


コメントしずらい、と言いたげな彼の顔を見て私は一つ咳払いをした。彼は不遜ではあるが職務忠実で立場を重んじる人間であるから、ついつい私が感傷的になるときちんと歯止めを利かせてくれる。信頼する部下には甘えてしまうのが私の悪い癖だが、彼は私人としての私を甘やかしたりしない。


「君のハッキリした態度は尊敬に値するよ。」
「お褒めに預かり光栄です。」


もう一度彼はカップに口を付けた。眉間に皺が寄るのが見て取れたが紅茶がまずいだけではないだろう。元来彼は物を美味そうに飲み食いする方ではない。

リクエストを頂いたディムハロの枕にと思っていたんですが、どうも上手く続きそうにない上にディムロスの人格を動かし過ぎた感があったので、没になりました。
ちょっとディム←カー気味。

ディムとカーレルの遣り取り。






「貴方は兵站に関して理解がなさすぎますね。」


カーレル・ベルセリオスは秀麗な造形の顔の中心に深々と縦の皺を入れながら、目の前の男を睨んだ。目の下に疲労の色を感じさせる隈が刻まれていることからして、ここ数日余り寝ていないらしい。尤も少尉に任官して以降、彼が取る睡眠時間は同世代の平均をそもそも大きく下回っていたのだが。


「ご迷惑をお掛けしました。」


謝罪の意を示すべく腰を折った男の長い青髪が揺れた。参謀総長としての苦労が募っている様子のカーレルに内心で微かな同情を示したが、その感情は礼則通りの態度には全く表れない。反発の様子を見せない代わりに反省の色もない。


「ただ、まぁ、戦果の方はお見事でした。全く。」
「ありがとうございます。」


溜息混じりの称賛と中身の無い返礼。自分に認められても全く嬉しくないのだろうな、とカーレルは諦めの色を強くしていた。正直言って、同じ空間にいて快適だと感じられなかった。恐らく相手も同じだろう。年回りも近く、前線への派遣参謀として関わりがあった尉官の時代から付き合いがあり、以前はそこそこに親しくもあった。しかし、階級が上がり互いの責務と権限が大きくなりにつれて反りが合わない物を感じてしまっている。

恐らく、後方で計画を立てる者と前線で指揮をする者の立場の違い、それとそもそもの人格の大きな相違が原因だろう。前線指揮官としての有能さは認めざるを得なかったが、出来る事ならば関わり合いになりたくないとも感じている。彼は一緒に仕事をする仲間、ことに後方にいる参謀達の苦労を顧みない。

しかも、こちらが無理をすれば処理し切れるレベルを見極めて苦労を押し付けてくるのだから計画的犯行としか言いようがない。参謀本部が彼らの能力を分析して計画を立てるのが本筋なのに、むしろ参謀本部が彼らに使われているような気持ちになる。使い方が理に適っているだけに益々カーレルは気に入らない。


「下がって頂いて結構です。報告は書面で。貴方とまた顔を合わすのも億劫ですから。」
「もう準備していありますので直ぐに届けさせます。」


自分のやや直接的な物言いに対する反撃か。一瞬そう思ったカーレルは不快感を覚えたが表情には出さなかった。すぐにこの男が自分に対してそれほど高度な感情を抱いてはいないだろうことを思い出したからだ。この寸鉄染みた発言も彼の立場と職業倫理から表れるものにすぎない。

指示を受ける立場にも関わらず、この男は先回りが多い。彼は一分一秒でも早く目の前の問題を解決し、前線の兵士が置かれた状態を少しでも改善することが正しいと信じている。手続き上の細かな部分で規則に反し、後方に混乱を生じさせ、優秀な参謀達の神経を逆撫ですることになっても。「シェルショックで苦しむ兵士は多いのだから参謀もノイローゼになる義務がある」とでもあの野蛮人は思っているのだろう。糊の効いた制服を着た参謀達はそう陰口を叩いていた。


「貴方と仕事をしていると計画を立てる意味を疑いたくなりますね。」
「前線では計画通りにいかないことも含めて計画を立てます。」


この嫌味は無意識のものだろう。この男は残念なことに好人物で、兵からは慕われ、部下の将校からは敬われ、同僚からは頼りにされている。下級将校の頃は上官からの受けも決して悪くはなかった。つまり、このディムロス・ティンバーに面白からぬ思いを抱いているのは自分だけと言う訳だ。彼のような人間を好ましく思えない立場にいるというだけで随分損をしているような気がカーレルはしていた。


「下がって結構です。」
「はい。失礼します。」


これで無能ならどんなに付き合いやすかっただろう。
そう思ってカーレルは再び溜息を吐いた。





 

テストが週末に迫りますが厭戦ムードが漂っています。
いやだなぁぁぁぁ。

そろそろキリ番が迫っています。
お踏みになった方はリクエストをお願いしますね。
テストが終わった辺りにババッと書こうと思うので。
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