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気付いたら23歳(遠い目
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「んー。」
「何か疑問でも?」
「いや。」
「じゃ、どうしました?」
「何か悪いな。」
「記憶力が?」
「・・・。」
「冗談ですよ。」

彼は意外と良く喋る上に、面白い人だった。ただ、たまに出る冗談の意地が悪くて閉口した。私には全く彼の弱点が見つからないのに、彼はすっかり私の弱みを掴んでしまっていた。

「それで、何です?」
「やっぱり止す。」
「拗ねないで下さいよ。」
「別に拗ねた訳じゃ。」
「じゃ、何なのか話して欲しいな。」
「・・・教えて貰ってばかりだから。」
「はい?」
「カーレルに教わってばかりで悪いな、と。」
「なんだ、そんな。」
「いや、だってなぁ。」
「気にしないで下さいよ。」
「私は気になるんだ。」
「んー。」

困りましたね、と彼は言うのだが、全然困ってはいないように見えた。どうして彼はこんなに余裕があるんだろう、と思った。よく考えると彼はマイペースだっただけのような気もするが。

「世話になってばかりなのは性に合わないと言うか、居心地が悪い。」
「んー・・・。」
「ん?」
「ディムロスに勉強教えられて嬉しいんだけどなぁー。」
「・・・。」
「嫌だった?」
「そうは言ってない。」
「んー。」
「ん?」
「じゃ、何かお礼をくれるってことかな?」
「んー?」
「一方的に世話になるのが嫌なんでしょう?」
「あぁ。」
「じゃ、そうじゃない?」
「それは、うん?まぁ、そういうことになるのか?」
「よしよし。」
「ん?」
「楽しみ。」
「あんまり期待されてもなぁ。」
「何でも良いですよ。」

私から貰う物自体より私から何か貰うことが楽しみなのだと、とカーレルは言った。私は捻くれ者だったかも知れない。そういうことを言われて、ますます何か良い物を彼にプレゼントしてやりたくなってしまったのだから。
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一学期のテストが迫る6月。士官学校という厳しい名前がついているものの、学校であることには変わりなく、教科書のページで試験範囲が指定され、それぞれが山を張り始めたものだった。何だか高校時代と変わらなくて調子が狂った。実際、あの試験が役に立ったかと考えてみると大分と怪しいものがある。しかし、試験がなければ勉強しない人もいるようだから仕方ないかも知れない。私も、どちらかと言えばそういう種類の学生だったと思う。

「参謀本部制度の父。」
「えーと、モルトケ。」
「南北戦争における南軍の司令官。」
「・・・グラント?いや、リー?」
「どっちですか?」
「んー・・・。」
「どっち?」
「リー?」
「自信がないと顔に出ますね。」
「・・・正解は?」
「良い勘です。正解。」
「当てずっぽうで悪かったな。」
「正解は正解。兵は勝つを尊ぶ、ですよ。」
「孫子。」
「良く出来ました。」

一緒に試験勉強をしようと言いだしたのは彼の方だった。放課後に教室に残り、互いに問題を出し合った。いつも真面目に授業を受けているだけあって、彼は試験勉強が要らないくらい良く出来て、お陰で教えてもらう感じになってしまっていた。
翌朝。聞いたからには呼んでみようと思いながら、教室への道を歩いた。私達は二人でいるのだから、わざわざ名前を呼ぶ必要なんてないのだけれど、何だろう、彼を身近に感じられたら嬉しいだろうなと、そう思ったから。なるべく静かに教室に入り、彼の背中を見つけた。今日は日差しが弱いのか彼の指定席は日溜まりにはなっていなかった。まだ彼は私に気付いていない。掴み所のない彼に翻弄されてばかりだから、こうして気付かれずに見ていることに少しの優越感を覚えていた。 

「カーレル。おはよう。」
「・・・。」 

若干ぎこちなく声をかけると、彼は黙って振り向いて目を瞬いた。少し眉が上がっていて、驚いた顔だと私は分かった。それから「んー」と小首をかしげて視線を泳がせ、何やら考えている様子。いつもと違い、うんうんとは頷かなかった。 

「何ででしょうね?」
「ん?」
「名前を呼ばれて、妙に嬉しいんですよ。」
「そうか。」
「そうなんですよ。」 

気が付いたら、彼は笑顔だった。なおも「何でかなぁ」と首を傾げていた。今日は首を横に曲げる日らしかった。
「ねぇ、ディムロス。」
「うん?」
「呼んだだけです。」
「何だかなぁ。」
「呼ばれて、どんな気持ちですか?」 

多分、私も「妙に嬉しい」気持ちだったのだと思う。ただ彼ほど表現力が豊かでない私は、それを言葉に出来なかった。 だから、私は彼を見つめながら「んー」と首を傾げて、それから零れるように笑った。彼は、やっと満足げに頷いた。 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ファーストネームを呼び捨てると言うことに私は「特別」を感じるのですが、どうかしら? しかし、ディムロスは無口だな、内心色々考えてる割に。持って回ったような思考をしてるのは彼が固い人間なのを象徴してるわけなんですが、何か妄想豊かなむっつりスケベなタイプっぽくもある。(笑)  カー君はだいぶ心を許し始めました。そろそろ色々喋ってくれるはず。ディム君が自分なりの論理で動くのに対して、カー君は感性型なのでお互いに行動が読めてません。互いに不意討ちされてばかり、びっくりしてばかり、相手に振り回されてると互いに思ってるんだぜ、実は。 


M様と呼ばれたりもしますが、私は実はS様です。(笑)
翌日私が教室に行くと彼は振り向いて、おはよう、と二列後ろの私に声をかけてくれた。私も挨拶を返すと、彼は読書に戻った。何日かこんな朝の挨拶が続いた。おはよう、と私から挨拶することもあった。もう二言三言くらい他愛ないようなことを話すこともあったけれど、私達が言葉を交わすのは朝の数分二人きりの時だけだった。 

「あ、そういえば。」
「ん?」
「名前・・・。」
「名前、ですか?」
「私の。」
「あぁ、アナタの。」
「言ってなかったな、と。」
「ディムロス=ティンバーでしょう?」
「・・・!?」
「カーレルです。」
「?」
「ファーストネーム、私の。」 

少しずつ親しくなるのだけれど彼は不思議さを失わなかった。ファーストネームをわざわざ教えたのは呼べと言うことだろうか、と彼の一挙一動に関して私は相変わらず考察せざるをえず、しかも考えても結局彼が何を考えているのかはいつも分からずじまいだった。
「この前は、どうも。」

どうしようもなく半端な形で口火を切ったのは私だった。いかにも喋るのが下手な人間の切り出し方だし、何がどうもなのか全く分からない。その言葉を受けた彼はゆっくりとこっちを向くと、少し目を大きく開いて眉を上げた。これは彼の少し驚いた顔だったらしい。その後で、あぁ、と軽く頷いて彼は笑った。

「苦戦してましたね。ネジも無くしそうでしたし。」

忘れて良い事も含めて、彼は私を良く憶えていたようだった。ふわふわした見た目の割に彼ははっきりとした声をしていたが、喋り方には雰囲気と共通する丸みがあって、きつさが感じられなかった。ただ、この話題は少し失敗だったようにも思えた。

「実習は苦手ですか?」
「・・・不器用なので。」
「なるほど。見た目通りですね。」

彼は何故だか満足そうに笑って頷いた。厭味にも聞こえそうな発言だったのに、思ったほど悪い気はしなかったのが不思議だ。痘痕も笑窪?少し違うか?取り敢えず、頭の切れそうな好青年という感じの見た目とは少し違うのは良く分かった。おっとりしているというか、鈍いというか、独特のペースを持っているように感じられた。

「朝、早いんですね。」
「ええ、良い席が取りたくて。」
「日当たりの良い?」
「ええ。日差しがあると寒さも幾らか和らぎますよ。」

そう言ってから彼は掌を擦って、廊下は冷えますね、と笑った。良く笑う人だな、と思った。笑っている人といるのは気分が良いな、と思った。他の友人も勿論笑うけれど、彼みたいに暖かく笑うのはあまり見ない。寒いと言いつつ暖かく笑うのは、何だか可笑しくて良いなと思った。

「貴方も、早いですね?」
「ええ、私は・・・何となく。」

無意識なんだろうけれど鋭い質問だった。正直言って答えに窮した。私は彼との関わりが持てるかな、と期待して早く行っていた訳だけれど、それを表立って本人に言えるほどに大胆な性格ではないし、誤解――そもそもどういう誤解だ?――を恐れない性質でもなかった。彼は大きな瞳を私の顔へ向けたまま、ふーん、と笑って頷いた。さっきから良く上下に動く首だな、と思った。彼は制服の下に薄手のタートルネックを来ていたから首自体は見えなかったけれど。彼の表情には訝しむ様子はなかった。ただ、彼の納得する様子が妙に嬉しそうなので少し反応に困る。

「ふーん・・・何となく、ね。」
「ええ。」
「じゃ、早く来て何かしてる訳じゃないんですか?」
「あー、まぁ。」
「・・・なるほど。」

そうして同じように、彼は嬉しそうに笑って頷いた。釈然としない気持ちながら、何となく釣り込まれて嬉しいような気持ちにさせられてしまった。本当に彼は不思議な人だ。丁度、用務員の人が来て、教室の鍵が開いた。他の学生もやってきた。彼は私に軽く一礼すると、いつもの通りに指定席へと急いだのだった。私はまた名乗りそこなってしまった。
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